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古事記現代語訳

古事記現代語訳(10)兄の八十神たちの復讐

八十神(やそがみ)たちは、大国主命が八上比売を得たことを知ると、激しく怒り、命を殺してしまおうと企みました。

彼らは大国主命を伯耆(ほうき)の国の手間山の麓へ連れて行き、こう言いました。

手間山は、現在の鳥取県西伯郡南部町。現在は、手間の要害山と呼ばれています。標高332メートル。

近くには、赤猪岩神社もあります。

引用元:flickr

「この山には赤い猪がいる。私たちが山の上から追い下ろすから、お前は下で捕まえろ。もし失敗したら、お前を殺すぞ。」

八十神たちは山の上で大きな石を猪に見立て、火で真っ赤に焼いて転がし落としました。

命はそれを本物の猪と思い、捕まえようとして焼け石に抱きつき、全身が焼けただれて絶命してしまいました。

母の刺国若比売(さしくにわかひめ)は深く嘆き、天に昇って神産巣日命(かみむすびのみこと)に救いを願いました。

すると命は赤貝の貝比売(きさがいひめ)と蛤の蛤貝比売(うむぎひめ)を遣わしました。

貝比売は貝殻を削り、粉を乳のような汁にして搾り出し、蛤貝比売がそれを受けて大国主命の身体に塗ると、傷は癒え、命は再び若々しい姿で蘇りました。

これは、古代の火傷の治療法でした。

しかし八十神たちは諦めず、再び命をだまして山に連れ込みました。

彼らは大木を切り倒して割れ目に楔を打ち込み、その中に命を閉じ込め、楔を抜いて挟み殺してしまいました。

母の刺国若比売は泣きながら子を探し歩き、ついにその木を見つけて割り開き、命を引き出して再び蘇らせました。

そして言いました。

「お前がここにいては、いずれ八十神に殺されてしまう。木の国の大屋毘古神(おおやびこのかみ)のもとへ逃げなさい。」

木の国に逃れた大国主命でしたが、そこにも八十神たちが追ってきて矢を射かけました。

木の国は、紀伊国。現在の和歌山県全域と三重県南部。

命は木の股をくぐって必死に逃げ延びました。

母はさらに言いました。

「須佐之男命のおられる地下の根之堅洲国(ねのかたすくに)へ行きなさい。きっと良い知恵を授けてくださるでしょう。」

こうして大国主命は、母の導きによって須佐之男命のもとへ向かうことになったのです。

古事記・読み下し文・注釈(武田祐吉・青空文庫より)

貝比賣と蛤貝比賣

かれここに八十神忿いかりて、大穴牟遲の神を殺さむとあひはかりて、伯伎ははきの國の手間てまの山本に至りて云はく、「この山に赤猪あかゐあり、かれ我どち追ひ下しなば、汝待ち取れ。もし待ち取らずは、かならず汝を殺さむ」といひて、火もちて猪に似たる大石を燒きて、まろばし落しき。ここに追ひ下し取る時に、すなはちその石に燒きかえてせたまひき。ここにその御祖みおやの命哭き患へて、天にまゐのぼりて、神産巣日かむむすびの命にまをしたまふ時に、きさがひ比賣と蛤貝うむがひ比賣とを遣りて、作り活かさしめたまひき。ここに貝比賣きさげ集めて、蛤貝比賣待ちけて、おも乳汁ちしると塗りしかば、うるはしき壯夫をとこになりて出であるきき。

  • 伯伎の國の手間の山本(鳥取県西伯郡天津村)
  • 御祖の命(母の神)
  • 乳汁(赤貝の汁をしぼっての貝に受け入れて、母の乳汁として塗った。古代の火傷の療法である)

根の堅州国

ここに八十神見てまた欺きて、山にて入りて、大樹を切り伏せ、茹矢ひめやをその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなはちその氷目矢ひめやを打ち離ちて、ち殺しき。ここにまたその御祖、哭きつつぎしかば、すなはち見得て、その木をきて、取り出で活して、その子に告りて言はく、「汝ここにあらば、遂に八十神にころさえなむ」といひて、木の國大屋毘古おほやびこの神御所みもとに違へ遣りたまひき。ここに八十神ぎ追ひいたりて、矢刺して乞ふ時に、木のまたよりき逃れてにき。御祖の命、子に告りていはく、「須佐の男の命のまします堅州かたすにまゐ向きてば、かならずその大神はかりたまひなむ」とのりたまひき。

  • 茹矢(クサビ形の矢。氷目矢とあるも同じ)
  • 木の國(紀伊の国【和歌山県】)
  • 大屋毘古の神(家屋の神。イザナギ、イザナミの生んだ子の中にいた。ただしスサノヲの命の子とする説もある)
  • 堅州(既出、地下の国)