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古事記現代語訳

古事記現代語訳(39)宮主矢河枝比売と髪長比売

応神天皇は成長され、大和の明(あきら)の宮でご政務を執り行われるようになり、あるとき近江へとご巡幸になりました。

ある時、天皇は近江の国へご巡幸になり、その途中で山城の宇治野にお立ちになりました。

そこで葛野(かずの)の方をご覧になりますと、葉の茂った野に家々が幾千ともなく建ち並び、実り豊かな良き土地が見えました。

天皇はそこで感慨深く、こう歌われました。

「葉の茂った葛野を眺めると、幾千もの栄えた家々が立ち並び、国の中でも実に良き土地がここから見えるものだ」

応神天皇は、そのまま木幡(こばた)の村にお進みになると、その道中で一人の美しい乙女に出会われました。

天皇は乙女に、「あなたは誰の娘か?」とお尋ねになりました。

乙女は恭しく答えました。

「私は丸邇之比布礼能意富美(わにのひふれのおおみ)の娘、宮主矢河枝比売(みやぬしやがわえひめ)でございます」

天皇は微笑まれて、「では明日、あなたの家に立ち寄ろう」と仰せられました。

矢河枝比売は急いで家に戻り、ことの次第を父に告げました。

父の意富美は大いに驚き、「その方は天皇陛下であられる。何と畏れ多いことだ。失礼なきよう、心を尽くしてお仕え申しあげなさい」と諭しました。

家は隅々まで飾り整えられ、翌日、天皇をお迎えしました。

矢河枝比売が盃を捧げてご馳走でもてなすと、天皇は盃を取りながらお歌いになりました。

「この蟹はどこの蟹か?遠く敦賀の蟹が横歩きをして、近江を超えてここまで来たものか。私もまた近江からきて、伊知遅島(いちぢしま)、美島(みしま)に着いたら、鳰鳥(かいつぶり)のように水に潜り、楽浪(ささなみ)へと向かう道を、どんどん真っ直ぐに進んだら、木幡の村でおまえに出会った。おまえの後姿は盾のように凛として、歯並びは椎の実のように白く美しい。櫟井(いちい)の丸邇坂(わにざか)の土を眉墨にして、ちょうどよい色に色濃く描いた眉は、何とも麗しい。ああ、そちは本当に美しい娘よ」

こうして天皇は矢河枝比売の美しさを深くお褒めになり、やがてお妃とされました。

この矢河枝比売との間に生まれた御子が、宇遅能和紀郎子(うじのわきいらつこ)でありました。

応神天皇には皇子十一人、皇女十五人がおられましたが、その中でも矢河枝比売が産んだ宇遅能和紀郎子を、ことのほか可愛がられました。

また、応神天皇は、日向の国の諸県君(もろかたのきみ)という豪族の娘で、髪長比売という非常に美しい乙女がいるとお聞きになり、宮中に召し仕えさせようと、はるばる呼び寄せられました。

皇子の大雀命(おおさざきのみこと)、のちの仁徳天皇は、髪長比売が船で難波の津に到着した時の姿をご覧になり、そのあまりの美しさに心を奪われてしまいました。

そこで大雀命は、武内宿禰に、

「どうか、父上にお願いして、あの髪長比売を私の妃にしてもらえないだろうか」

と頼みました。

武内宿禰はすぐにその願いを応神天皇に申し上げました。

応神天皇はそれをお聞きになると、ある日の酒宴に大雀命を呼び寄せ、髪長比売にお酒を注がせ、その柏の葉の杯をそのまま大雀命に授けられました。

そして、にこやかに歌われました。

子どもたちを連れて野蒜を摘みに通る道端の橘の木、上の枝は鳥に荒らされ、下の枝は人にむしられてしまったが、中ほどの枝には花が咲き、ひっそりと三栗(みつぐり)のような実が隠れている。

その可憐で慎ましい乙女は、まさにお前にふさわしい。さあ、連れて行くがよい。

こうして天皇の許しを得た大雀命は、以前から噂に聞き、心に描いていた美しい乙女をついに妃とすることができました。

大雀命がその乙女にお詠みになった歌は、

遠い国の古波陀(こはだ)のお嬢さん、雷鳴(かみなり)のように音高く、噂には聞いていたが、ついに僕の妻になってくれたのだ。

遠い国の古波陀のお嬢さんが、素直に僕の妻になってくれた、本当にかわいいね。

大雀命は喜びの気持ちを歌に託して詠い、満ち足りた心で御前を下がって行きました。